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10年に一度のイギリス国勢調査

2021年はイギリスで10年に一度の国勢調査が開かれる年でもあります。

前回の国勢調査は2011年、前々回は2001年。

私も国勢調査に回答する機会があったので、今回は参加してみて感じたことを書きました。

 

 

イギリスの国勢調査事情

イングランドウェールズではOffice for National Statistics(英国統計局)(略してONSと表記される)というところが国勢調査を実施しています。

 

この英国統計局は他にもさまざまな統計データを収集、解析しています。

一般の人々が利用できるように公開しているデータも多くあります。

ランドスケープデザインを学んでいた学生時代は、課題として与えられた地域や場所の基本的なデータを手に入れるために英国統計局のサイトにアクセスしたこともありました。

現在コロナウイルス(Covid-19)の、日々の感染者数や地域別の傾向を解析・発表しているのも、この英国統計局になります。

 

今回の国勢調査は、英国籍あるなしに関係なく、イングランドウェールズに住んでいるすべての人が対象です。イギリスの滞在が3ヵ月未満の人だけは回答不要です。

スコットランド北アイルランドは、英国統計局ではない別団体が統計を取っているようです。

 

基本はオンラインで回答しますが、希望者には紙での回答フォームを送ってくれます。基本は英語もしくはウェールズ語で回答しなくてはいけません。

英語が読めない回答者の場合、希望者には質問内容をそれぞれの言語で訳したパンフレットを送ってくれます。

 

私は英語で回答してしまいましたが、後で探したら日本語訳のパンフレットをオンラインで見つけました。

正確なニュアンスを知るためにに参照してもよかったな~、と少し後悔。

日本語話者ってイギリスの総人口のなかではほんの豆粒みたいな割合だけど、言語サポートがあると、「国から存在を認識されているんだな」と少しだけ嬉しくもありますね!

 

英国統計局による日本語訳のリーフレットはこちら↓

https://census.gov.uk/assets/Japanese-Household-Questionnaire-guidance-booklet.pdf

質問内容が日本の国勢調査と違うところもあったので、比べてみるとおもしろいかもしれません。

 

 

興味深かった質問

私は大家さんが住んでいる家の一部分を借りて暮らしているので、「世帯」に関する質問は大家さんが答えました。

私自身はその世帯に暮らしている「個人」の回答を自分で行いました。

個人に問われている質問でいくつか興味深いものがあったので紹介しようと思います。

 

性的指向」と「性自認」を問う欄がある

最初に出生時に登録された性別「男性/女性」と問う質問があり、16歳以上の人はさらに「性的指向」と「性自認」の質問がされます。

「さすがは同性パートナーシップが認められている国イギリス!質問要綱が細かい!」と私は関心したのですが、どうやらこの二つの質問事項は今回の調査で初めて追加されたとのこと。

(参考:APF)

www.afpbb.com

2021年今日まで、「性的指向」と「性自認」に関する公式な統計が存在しなかったんですね。統計上はLGBT+は存在していない扱いだったわけです。

地域や政治・社会・経済統計といった生活実態を把握することで、現状の把握や、今後必要とされるサービス提案に役立てたい考えのようです。

他の情報と合わせてどんな実態が浮き彫りになるのか、興味深くあります。

 

ちなみに、「性的指向」と「性自認」への回答は任意とされているので、答えたくない場合はスキップできます。

 

法律上の婚姻と市民(同性)パートナーシップ

イギリスは市民(同性)パートナーシップが認められています。なので婚姻とパートナーシップの状況を問う項目では、以下の8項目から答えることになります。

 

  • 一度も結婚したことも、一度もパートナーシップの登録をしたことがない
  • 既婚
  • 登録した市民(同性)パートナーがいる
  • 別居中だが、法律上はまだ結婚している
  • 別居中だが、法律上はまだ市民(同性)パートナーがいる
  • 離婚以前は市民(同性)パートナーがいたが、現在は法的に解消している
  • 死別
  • 登録した市民(同性)パートナーと死別

 

「結婚」と「市民パートナー」が違うのだから、そのあとの「離婚/市民パートナーの解消」「結婚しているが別居中/市民パートナーがいるが別居中」「婚姻した相手と死別/登録した市民パートナーと死別」はそれぞれ異なる扱いなんですね。

勉強不足なので、なんとなく頭の中では結婚と市民パートナーを登録した後は同じものだと認識していました……。

まだまだ理解が足りないと、項目をみて気がつかされました。

 

 

貴方は「イギリス人?」アイデンティティを問うもの

「あなたの国民意識をどう表現しますか?(What would you describe your national identiy?)」という質問。

 

回答欄の選択肢は

イギリス人 (British)

イングランド人 (English)

ウェールズ人 (Welsh)

スコットランド人 (Scottish)

北アイルランド人 (Nortern Irish)

その他自由回答 (Other)

の六択です。

 

イギリス人 (British)とそれぞれの国の国民意識が分かれているのもイギリスらしいですね。

普段の日常会話では「イギリス人」を自称する人ってあまり聞かない印象です。もっとグローバルな場で他の国の人々と交流すると「イギリス人」と名乗るのかもしれませんが。

イングランドに住んでいると「イングランド人」って自称をよく聞きますし、スコットランドから来た人は「スコットランド人」って言い分ているので、自分を「イギリス人」と考える人ってどれくらいいるのでしょう…?

 

 

「意識」を問う項目なので「私はもうイギリス人だ!」と思っているなら、私自身も「イギリス人」か「イングランド人」と回答してもよかったのですが、なかなかそういう気分になれませんでした。

 

イギリスの大学教育を受け、医療や市民サービスに登録し、税金を支払い、働き、同じコロナの影響を受け、同じ法律を守っていて、イギリス人と同じ屋根の下で暮らすし、生活はかなりイギリス式に染まってきています。

人生の何分の1はイギリスで過ごしているのに、それでもまだ「私はイギリス人/イングランド人だ!」とは認識する気持ちにならないんですよね。

 

やっぱり幼少時に育った国や環境が意識のベースになるのか、それともこの気持ちは、日本よりイギリスに長く住んでいれば変わるものなのか、今はまだ分かりません。

 

かといって「アイデンティティは100%日本人」と断言するには、ここ数年日本の現代的意識から離れてきてイギリス式に染まっている自分がいるのも事実です。

回答欄がもっと長ければ「4分の1イギリス人で3分の4は日本人です」と答えたかったかもしれません。

 

 

統計結果とランドスケープとの関わり

今回の国勢調査の締め切りは3月21日となっています。

データを収集して最終的なレポートが発行されるまでには、まだしばらくかかると思いますが、そこにどんな情勢が描かれるのか、興味深くあります。

 

というのもランドスケープ業界も、統計情報を参考にして都市計画を立てたり、地理情報と人口統計を組み合わせて、未来のランドスケープの在り方を考えるわけです。

例えば、いろいろなエスニックグループの割合が高いエリアだったら、マイノリティのエスニックグループがコミュニティとして参画しやすくなるような都市農園を配置したりします。

仮にもしLGBT+の人の割合が高い地区が分かれば、それを考慮して新しい計画ができたりするかもしれません。

今はまだ、どんな要素が影響を与えるか分かりません。

ただ言えるのは、統計上で存在を可視化されないと現状を把握することが難しいのです。

なので質問内容と、回答できる項目の選択肢はとても大事なものですよね。

 

統計の結果も今後見守っていきたいと思います。 

 

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