風景と物語

ガーデンとランドスケープデザインの修行中

英国の彫刻家ヘンリームーア スタジオズ&ガーデンズ 【前編】

5月31日月曜日はSpring Bank Holidayと呼ばれる祝日にあたり、土日と合わせて三連休になっています。

日照時間も夜9時まで伸び、出かけるのにぴったりの天候で、毎年遠出する人々で混雑します。

昨年の三連休はまだまだロックダウンによる規制で、レストランもお店も閉鎖中だったので、今年こそはと出かける人も多かったと思います。

 

この時期は20度前後の気温で何しても快適で、新緑も出始めて何もかもフレッシュに見える季節。私もイギリスの一年の中で一番好きな季節かもしれません。

 

せっかく天気のよい三連休なので、家の中に居るのももったいないし、屋外の展示も楽しめる「ヘンリームーア スタジオズ&ガーデンズ」に行ってきました。

 

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ヘンリー・ムーアの彫刻と同じポーズで写真を撮る家族。
連休なのもあってか賑わう。

 

 

ヘンリー・ムーア(1898-1986)はイギリスの近代の芸術家の中でも最も有名な一人です。

とりわけ有名なのは彫刻ですが、他にも絵やテキスタイル、タペストリーなど様々な媒体の芸術作品を世に送り出し続けました。

特に、彼のブロンズ彫刻は有名で、世界各地の様々な場所で展示されています。

彫刻が好きな人は一度は見かけたことがあるかもしれません。

日本でもヘンリー・ムーアの彫刻は有名で、箱根の彫刻の森美術館などにコレクションがあるそうです。

 

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デンマークルイジアナ近代美術館を訪れたときに見かけたヘンリー・ムーアの彫刻。

 

 

ロンドンのハムステッドに暮らしていたヘンリー・ムーア夫妻ですが、1940年、外出から戻ってくると、ロンドンの自宅は爆撃によって破壊されていました。

仮の住まいとして、ロンドンの北に隣接するハートフォード州にある小さな村に、ヘンリー・ムーアは住居兼スタジオを構えました。その後は生涯にわたって住み続け、今はHenry Moore Foundationに管理され、現在は「Henry Moore Studios & Gardens(ヘンリームーア スタジオズ&ガーデンズ)」彼の作品を展示する美術館となっています。

 

ヘンリー・ムーアが住んだ家は「Hoglands」と呼ばれ、彼が住んでいる間、徐々に住宅周辺の土地や牧草地、物件も追加で購入し、制作スタジオをあちこちに建てました。最終的に彼が購入した土地は、Hoglandsとその周辺の土地を含めて60エーカーまで広がりました。

 

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ヘンリー・ムーアが過ごした住居兼アトリエ、Hoglands。

最初は家の半分を借りていたが、最終的に全て買い取った。

(2019年撮影)

 

参考リンク: ヘンリームーア スタジオズ & ガーデンズ

www.henry-moore.org

常設されている彫刻の他に、シーズンごとに入れ替わりで彼の絵や他の作品の展示も行われています。

以前にも訪れたことがあるのですが、季節ごとに違う表情を見せる彫刻や、期間限定の展示が観たくて、今回二度目の訪問になりました。

 

 

ヘンリー・ムーアの彫刻の魅力

ヘンリー・ムーアの有名な彫刻の多くは、抽象化された人体が多く、その有機的な形状は、屋外展示で特にその魅力を発揮します。

彫刻のサイズも数メートルと大きく、スケールの大きい場所に設置されてこそ、彼の表現しようとしたものが何となく伝わるのかな、と個人的には思います。

彼の彫刻はイギリス中の各所にあり、街中やロンドンのテートブリテン美術館にもヘンリー・ムーアの彫刻のコレクションをいくつか観ることができます。

ですが移動手段がある人はぜひ自然豊かな屋外で展示されているヘンリー・ムーアの彫刻を観ましょう。スケールの大きさが違います。

 

 

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テートブリテンに展示されているヘンリー・ムーアの彫刻。

彫刻の美しさは体感できるのですが、スケールの大きさがいまいち伝わり切らないのです。

 

 

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ヘンリー・ムーア スタジオズ&ガーデンズに設置されている彫刻。

背景となる風景と通り過ぎる人のサイズと組み合わせてこそスケールの大きさが伝わる。

 

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ロンドンのカナリーワーフに設置してある彫刻。

人工的なビルの風景とムーアの曲線がミスマッチしていて

なんだかもったいない展示の一つだと個人的には思っています。



歩き回ることで「体験」する彫刻の魅力

ヘンリームーア スタジオズ&ガーデンズの中でも特に一押しな彫刻は、牧草地の真ん中に設置されている「Large Reclining Figure」です。

彼の彫刻の中でも最大サイズで、全長9mあります。

遠くから眺めると、周辺の風景に比べてとても小さく見え、近づいていくと徐々にそのスケールの大きさが分かります。

歩き回ることで様々な距離から彼の作品を「体感」できます。

 

 

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Large Reciling Figureを遠景から見たところ。
(偶然前を通っていた他のお客さんがハリウッドポスターみたいに

かっこよく写ってくれました)

 

 

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半分くらいの距離。

牧草地の真ん中にあり、飼育されている羊は彫刻など気にせずモリモリと草を食べている。

 

 

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ここまでくると本当に大きい。

写真では分かりずらいのですが、見上げるほどの大きさです。

 

屋外彫刻を語る上で外せない要素の一つに、日々、刻々と変化する環境があります。

季節や天候が変わるだけで違う雰囲気になる様を観察するのは、美術館や室内展示ではできない体験です。

 

 

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前回2019年秋に訪れたときの写真。

日差しの強さや空の色のせいか少し寂し気な雰囲気に。



いくつもあるスタジオ

敷地内には彼の制作スタジオも「いくつか」あります。

そう、複数あるのです。

絵を描くスタジオとか、小さい彫刻をつくるスタジオとか、大きい彫刻をつくるスタジオとか、用途ごとにスタジオがあり、彼の創作の源や過程を感じられるのが魅力的。

それにしても、デザイナーとしては、スタジオが一個あるだけでも羨ましいのに、用途ごとにスタジオを持っているなんて羨ましい限り……。

 

 

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家の横にある「Top studio」

ムーアが引っ越してきた時に一番最初に作られたスタジオ。

 

 

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1970年に建てられた「Bourne Maquette Studio」

主に小さい彫刻のひな型(Maquette)を作るのに使われたそうです。

窓の外には羊とムーアの彫刻が見える。

 

 

ヘンリー・ムーアが住んだ「Hoglands」内部にも彼が集めたりインスパイアされた美術品や石などが飾ってあり、彼のアイディアの源泉を垣間見る事ができます。

※家の中の写真撮影は不可となっています。

残念ながら2021年現在は、コロナの規制の関係で現在は閉鎖されていますが、見学可能になっていたらぜひ一度室内を観ることをお勧めします。

 私はコロナの前に訪れた際に見学しました。友人のアーティストからもらった作品や、世界各地から収集した美術品、道端で拾った石ころなどが所狭しと並べられていて、ムーアが好きな物事が伝わってきました。

 

 

 

長くなってきたので、後半へ続きます↓

storyscaper.hatenablog.com

 

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